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第14回日本臨床検査医会振興会セミナー (Jun. 28, 1996)

≪トピックス(1)≫

マルチメディアで変わる臨床検査

西堀眞弘
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部

Impacts of the Multimedia Technology on Clinical Laboratory Medicine

Masahiro NISHIBORI
Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University, Medical School

revised edition <Last updated, Jun. 24, 1996>
(revised portions from the first edition are marked with [revn] signs.)


1.ライブメッセージ

 講演当日は冒頭で、山形大学医学部臨床検査医学助教授 山口一郎先生に、インターネットを介してライブでご登場いただく予定である。山口先生は本年1月27日に開かれた日本臨床病理学会東北支部例会で、デモを中心としたインターネットのシンポジウムを主催され、マスコミの注目を集められるなど、東北地方におけるマルチメディア実践の第一人者である。画質などは本物のテレビ中継と比べるべくもないが、ビデオ入力装置のついたパソコンをインターネットにつないだだけで可能となる革命的な機能を、まずは実際に体験していただきたい。[rev1]


2.マルチメディアとは何か

 「マルチメディア」という言葉は、一昔前流行った「ニューメディア」と同様に、内容がはっきりしないまま産業界の思惑だけが先行している面がある。しかし実際の社会的インパクトの大きさを見ると、今度はどうやら本物の可能性が高い。はっきりとした定義はないが、広い意味では次の3つの技術進歩を背景とした概念と考えられる。
(1)従来はコンピュータで扱える情報が文字や数値だけであったのが、著しい性能向上により、音声や静止画像、さらには動画像まで扱えるようになったこと
(2)情報保存の媒体が、従来は磁気テープやフロッピーディスクだけであったのが、ICカード、光カード、CD-ROM、ミニディスク(MD)、光磁気ディスク(MO)、デジタルビデオディスク(DVD)など、多様かつ大容量になったこと
(3)情報伝達の媒体が、従来は限られた範囲の専用回線であったのが、無線を使った機動的ネットワークや、インターネットに代表される広域の汎用ネットワークが普及したこと
 今回のセミナーでは、まず(1)と(2)の臨床検査分野における応用例について簡単に触れた後、現在最もホットな話題であるインターネットに焦点を当て、利用法の実際をデモンストレーションで紹介する。


3.マルチメディア端末による臨床検査データ参照

 音声や静止画像、さらには動画像を処理できる技術を応用し、測定値やコメントだけでなく、心音、心電図、超音波画像、免疫電気泳動像などの臨床検査データに加え、病理組織像、消化菅内視鏡ビデオ画像、消化菅造影、レントゲン写真やCT画像、シネアンジオグラフィーなどがコンピュータ上で一元的に扱われつつある[1]。さらに無線による通信ネットワークを活用し、医療機関内だけでなく街に飛び出して使えるワイヤレス臨床検査データ端末の開発も進んでいる[2]


4.生涯の検査データを自分で携帯

 大容量かつ超小型の記憶媒体の出現により、保健情報を格納するICカード、生涯にわたる医療情報を格納できる医用光カード[3]、精細な医用画像データを保存するIS&Cシステムなどが検討されており、生まれてから後のすべての臨床検査データを常に携帯することも可能になりつつある。


5.インターネットのインパクト

 インターネットはまず研究者や技術者の間で広がり、その後簡単な操作で文字や画像を閲覧できるソフトが発明されたことを契機に、一般社会への急速な普及が始まった。情報交換の中心である「電子メール」は、相手の不在時にも連絡ができ大変便利であるが、盗み見や改ざんの可能性を考えて使う必要がある。情報発信は主に「ホームページ」で行うが、最近では音声や動画像を扱う技術を駆使して、インターネット上で番組放映テレビ会議も行われている。
 医学医療分野では、遺伝子、蛋白質、微生物、癌治療などのデータベース、国内外の大学、研究所あるいは病院の紹介記事や、患者教育の教材、医薬品添付文書、医薬品副作用情報などがインターネット上で公開されている。また最近ではインターネット上での学術論文の公開や、電子メールを使った医療相談なども始まっている。
 なおこれらの具体例については、別稿にまとめたものをインターネット上に公開しているので、そちらを参照していただきたい[4][5]


6.臨床検査分野でのインターネット利用

 このような流れの中で、臨床検査分野でも既にいくつかのホームページが開設されている。

臨床検査医のページ
(URL http://202.242.169.152/clap/clap.html)
  

臨床検査医有志が試験運用中のホームページ。新規保険収載検査項目一覧や、気軽に臨床検査に関する質問ができるページなど、日々の診療に役立つ情報を発信している。また臨床検査医関連のニュース、世界の保健医療ニュースあるいは臨床検査関連の製品情報の発信や、インターネットを使った公開サーベイあるいは公開講習会といった試みも行われている。

臨床検査情報学専門部会ホームページ
(URL http://itp4.hmi.yamaguchi-u.ac.jp/cpcli/cpcli.html)
  

日本臨床病理学会の臨床検査情報学専門部会が運営しているホームページ。学術講演会のプログラムや、日本臨床病理学会がまとめた「日常初期診療における臨床検査の使い方」(作成中)などの情報を発信している。

第43回日本臨床病理学会のページ
(URL http://hawk.hama-med.ac.jp/congress1.html)

日本臨床病理学会の初めての試みとして、第43回総会のプログラムや演題募集要項などの情報を発信している。

臨床検査技師のページ
(URL http://www.bekkoame.or.jp/~simaneko/medtec/medtec.html)

臨床検査技師有志が開設しているホームページ。臨床検査の基礎知識や、臨床検査技師の日常業務などが親しみやすく紹介されている。

臨床検査医学ホーム・ページ
(URL http://www.pitt.edu/~aksst/GHNet/Lab/lab.html)

米国の大学院生が作成したホームページを、米国在住の日本人研究者が日本語訳したページ。検査実施機関、学術団体、各種検査の解説、オンライン・ジャーナル、学会開催予定など、臨床検査医学関連のホームページの膨大なリストが掲載されている。

The American Society of Clinical Pathologists (ASCP)
(URL http://www.ascp.org/)

米国臨床病理学会のホームページ。各種アナウンス、生涯教育、出版物、会員募集などの詳細な情報が掲載されている。


7.おわりに

 インターネットについては、革命的な効用が喧伝される反面、セキュリティーの不備や反社会的利用について批判も多い。しかしいたずらに不安を抱いたり、逆にむやみにのめり込んだりすることなく、本質をよく理解して正しく活用したいものである。


文献

[1]
西堀眞弘、医療用マルチメディア・データベースのユーザーインターフェース携帯化の試み、第14回医療情報学連合大会論文集、727-730、1994年
[2]
西堀眞弘、医療用マルチメディア携帯端末の通信媒体に無線式デジタル公衆回線を用いる研究、第15回医療情報学連合大会論文集、897-898、1995年
[3]
西堀眞弘・椎名晋一、メモリー・カードによる検査情報管理システム、臨床病理臨時増刊特集第77号、91-101、1988年
[4]
西堀眞弘、1時間でわかるインターネット・エッセンス、UIC選書(URL http://202.242.169.152/works/work19960329.html)、1996年
[5]
西堀眞弘、インターネットを活用した病態解析支援、日本臨床病理学会臨床検査情報学専門部会 第14回学術講演会(URL http://202.242.169.152/works/work19960330.html)、1996年
【本講演抄録はインターネット上で公開しているのでそちらも参照していただきたい(URL http://202.242.169.152/works/work19960628.html)】

初版からの改訂内容

[rev1]
「1.ライブメッセージ」の項を追加

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