[-> Archives of Dr. mn's Research Works]

第14回医療情報学連合大会 14th JCMI (Nov., 1994) p727-730
3-G-1-3

医療用マルチメディア・データベースの
ユーザーインターフェース携帯化の試み

西堀眞弘
東京医科歯科大学医学部臨床検査医学

A Portable User Interface of a Database
Compatible with Multimedia for Clinical Use

Masahiro Nishibori
Department of Laboratory Medicine, Tokyo Medical and Dental University, Medical School

revised edition<Last updated, Nov. 15, 1995>
(revised portions from the first edition are marked with [revn] signs.)


Abstract

Medical imaging, including video images, usually requires large hardware which are so complicated and so expensive that its clinical use has little reality except for some specialized purposes. Easy operation, portability and reasonable cost would be vital for use in clinical practice. A prototype of the state of the art imitating the user interface of a virtual database system compatible with all kinds of medical images was developed using a notebook-sized personal computer and received clinical evaluation. Potential but great demand of clinicians for many advantages of digitized medical images are revealed. Qualities of images on the display were fairly good but varied depending on the graphical types of images. A new hypothesis to decide digitizing quality of medical images is presented.

Keywords: medical imaging, multimedia, user interface, portability


Contents

1.導入
2.目的
3.方法
4.結果
5.考察
 助成
 謝辞
 文献
(初版からの改訂内容)


1 .導入

 1.導入  現在の医用画像データベースは操作に特殊な知識を要する据置型の高価なコンピュータが不可欠なため、利用者は一握りの専門医に留まり、診療現場での実務使用には操作性、機動性および費用の面で著しい困難がある。もしユーザーインターフェース機能に優れた携帯端末から医用画像へ簡便にアクセスできれば、救急医療、回診、往診、症例検討、患者教育、医学教育等、利用範囲は一挙に拡大する。発表者は従来より、現状の医療用システムはユーザーインターフェース機能が著しく貧弱であるという問題点に着目し、システムからユーザーインターフェース機能を抽出したプロトタイプを活用する、ユーザーインターフェース主導のシステム設計・開発方法を考案し、実践してきた[1-3]。今回は、あらゆる医用画像を格納できる仮想の医療用マルチメディア・データベースシステムのユーザーインターフェースを想定した、現在の技術水準で可能な携帯端末のプロトタイプを作成し、機動性と操作性、およびデジタイズされたさまざまな医用画像について臨床的評価を加えたので、その成果をデモンストレーションにより提示する。


2.目的

 コンピュータの導入効果には、(1)コンピュータでなければできない作業の実現による、言わば絶対的効果と、(2)従来の手段をコンピュータに置き換えることによる、言わば相対的効果の2種類がある。急増する医用画像のデジタル化とデータベース化は不可避であが、得られるのはあくまで相対的効果である。従って表1に示す得失の総合評価が従来の手段を確実に凌駕するようバランスの図られたシステムが求められる。その開発には診療現場での試用と修正の反復による試行錯誤が不可欠であるが、その都度システムを作り直すのは事実上不可能である。そこでユーザーインターフェースだけを抽出してプロトタイピングを重ねることにより、予めその仕様を明らかにすることを目的とする。

表1 医用画像デジタル化の臨床的な得失
メリット
 保管スペースが節減できる
 管理・検索・参照が効率化できる
 参照時に拡大率・明度等の表示条件を調節できる
 動画像が簡単に参照できる
デメリット
 元画像に比べ画質が劣化する
 導入・運用・アップデート等に費用がかかる
 表示装置がないと検索・参照ができない
 やり方を覚えないと検索・参照ができない
 破壊・消失・盗難のリスクが高まる


3.方法

 3.1 ユーザーインターフェースの設計
 診療現場で手軽に使えるためには(1)簡単に持ち運びでき、多少乱暴に扱っても故障しにくいこと、(2)見たい画像が見たいときに素早く簡単に呼び出せること、(3)医師一人に1台以上備えられる程度の価格であることが要件となる。ハードウエアには表2に示すマルチメディア対応の携帯型パソコンを用いた。操作画面はシステム分析の結果図1および図2のように設計した。またアクセスした医用画像に対し、拡大・縮小、明暗・コントラスト、動画像の再生スピード等の調節機能を備えた。

表2 携帯型パソコンの技術仕様
機種名:Macintosh PowerBook Duo 280c
CPU:MC68LC040 66/33MHz、MMU搭載
メモリ:32MB
ハードディスク:320MB
ディスプレイ:
 8.4インチアクティブマトリクスカラー液晶
 640×480で256色、640×400で32,768色表示
 解像度約95dpi
ポインティング装置:2ボタントラックボール
音声入出力:無指向性マイク・スピーカ内蔵
外部インターフェース:
 RS-422(シリアル・LocalTalkネットワーク)
 モデムポート(ファックスモデム)
 ドッキング用コネクタ(各種周辺機器を外付)
蓄電池容量:1回の充電で2〜4時間の連続稼働
外形寸法:277mm×216mm×38mm
重量:2.2kg

[図1]メインメニュー [rev1]
診療中は、(1)医療情報収集・観察のフェーズ、(2)診断のフェーズ、および(3)その結果に基づく新たな診断行為または治療行為実施のフェーズという、3つのフェーズの間を目まぐるしく移行する。(1)のフェーズに含まれる医用画像の参照は、他のフェーズとの間で相互に素早く移行できる必要がある。そこで、診療中に必要となる機能はすべて個別の患者ごとにまとめ、この1画面の中で移行できるようにした。 (カラーデザイン:ヒューマンウエア

[図2]検査データ日付検索画面 [rev2]
メインメニューの検査成績検索のボタンを押すとこの画面になる。データの参照は、ある項目を時系列で参照する、最新のデータをすべて参照する、参照中のデータと同じ項目の異なる日付のデータを参照する、参照中のデータと同じ日付の関連する他の項目を参照するというパターンがほとんどである。この1画面でそのいずれのパターンでもアクセスできるようにした。 (カラーデザイン:ヒューマンウエア

 3.2 医用画像のデジタイズ
 表3に例示したさまざまな医用画像を準備し、携帯型パソコンによる表示を前提としたうえ、画質の維持を最優先に工夫を重ねつつデジタイズした。診断精度への影響を評価するため、正常例や典型例以外に、微妙な所見を有する画像も重視した。またコンピューター断層写真は各スライスが順に連続再生される動画像に変換した。

 3.3 評価・検討
 各医用画像を見慣れている専門医をはじめ、さまざまな立場の臨床医にこのプロトタイプを提示し、臨床的有用性につき意見を聴取した。


4.結果

 4.1 機動性
 耐久性は問題なかったが、重量と形状、蓄電池による連続稼働時間はさらに改善が求められた。

 4.2 操作性
 今回採用した携帯型パソコンは処理能力の向上が著しく、アクセス画面の応答時間について不満は聞かれなかった。ただし大きな画像が表示されると検索画面が後ろに隠れてしまい、検索する都度手前に持ってくるのが煩わしいとの指摘を受けた。また市販ソフトをそのまま流用した表示調節機能の操作性についても改善が求められた。

 4.3 画質
 デジタイズの作業を進めるに従い、カタログやマニュアルに記載されていないさまざまな技術的制約に遭遇し、克服にはさまざまな工夫を要した。しかし最終的には当初の予想より概ね良好な評価が得られた。但し表3に示すように画像の種類により評価には大きな差が生じた。  4.4 その他
 これらの画像を他施設に紹介する患者に持たせられるよう、ぜひとも標準化を図って欲しい、あるいは画像のデジタイズに主観が入らないよう、操作を規格化して欲しいといった貴重な意見もあった。


5.考察

 臨床医に提示したプロトタイプには、データベースの本体は一切備えられていないにもかかわらず、評価に際しては全く問題とされなかった。従ってここで実現されたユーザーインターフェースは臨床医の関心領域を網羅しており、そのニーズは今回の方法で十分に把握できたと考えられる。今回改善を求められた点の一部は、ハードウエアの大きさや重量、メモリ容量、外部記憶容量、サーバとの通信速度、表示精度等において、現在の民生技術の水準を明らかに超えているが、技術進歩の速度を考えると克服は時間の問題であろう。
 表3のように評価の順に画像を並べると、左列に示すような分類による序列が浮かび上がる。そこで、十分な画質を得るために要求される表示精度は、画像がこの分類のどこに属するかにより大枠が決まり、さらに元画像の持つ画像精度によりその中での序列が決まるとの仮説を立てることができる。医用画像はともすると無限の表示精度を要求するような先入観を持たれがちだが、この仮説によれば文字認識における要求精度が最も厳しいため、その達成が必要十分な水準との目安が得られる。

表3 各種医用画像の画質評価
画像の種類 医用画像の例 臨床的評価
文字 解剖学図譜の解説 →平滑化の技法で多少見やすくなるが読みにくい。
模式図 解剖学図譜の図 →概要は十分わかるが細かい部分は見にくい。
モノクロイメージ 胸部レントゲン →概要は十分わかるが細かい部分は見にくい。
免疫電気泳動像 →ごく細い沈降線を除き使える。
胸部CT →元画像の解像度・明度階調から考えても十分使える。連続表示は立体構造の理解を助ける。明度の調節で異なる組織を強調できる。文字は読みにくい。
心電図 →縮小・拡大により十分使える。
肝シンチグラム →十分使える。
カラーイメージ 血液細胞強拡 →概ね使える。
腎生検組織 →概ね使える。拡大・縮小が便利
肝生検組織 →概ね使える。拡大・縮小が便利
腹腔鏡所見 →十分使える。
痛風結節肉眼所見 →十分使える。
モノクロ動画像 心血管造影 →実時間再生はぎこちなくスロー再生が限界だが十分使える。血管内壁の質的診断も期待できる。
心エコー →簡便に動きが見られるのがとてもよい。拡大左房のモヤモヤ像もわかる。文字はほとんど読めない。
カラー動画像 医学教育ビデオ →概ね使える。
・内視鏡ビデオ。 →十分使える。但しテレビより画質は劣る。
↑この表の上から下の順に、画面に表示したときの画質に対する評価が高くなった。すなわち、元の画像と同じ表示精度を得るためには、下から上の順に、表示装置に要求される解像度が高くなることが推測された。

 医用画像のデジタル化に伴う情報の劣化は不可避であるため、有限の記憶容量の中でどの程度の劣化を許すかという意思決定が求められるが、未だに議論は尽きない。しかしそのような議論の前に、各々の画像につき十分な画質を得るためには、表示装置の性能の追求が先決であるということを十分に認識すべきである。今回提示した仮説はそのための第一歩と考えており、実証のためにはより精度の高い表示装置の開発と、画像の種類や症例数を増やした大規模な検討が必要となる。そこで現在、さまざまな専門分野の臨床医およびメーカーとの共同研究を企画すべく準備を進めている。多くの方々の参画を期待したい。


助成

本研究の一部は平成6年度文部省科学研究費補助金奨励研究(A)課題番号06772218による

謝辞

 医用画像の借用を快くお許し下さったうえ、貴重なご意見を頂いた日本医科大学客員教授・春日部秀和病院副院長 森島明先生、獨協医科大学越谷病院教授 高畠豊先生、同講師 林輝美先生、吉田クリニック 吉田耕先生に深く感謝いたします

文献

[1]
西堀眞弘、椎名晋一:ユーザーインターフェース機能に優れた検査システムの開発、臨床病理、38:273-281、1990.
[2]
西堀眞弘、椎名晋一:医療情報システムのユーザーインターフェース、医療情報学、10:3-14、1990.
[3]
西堀眞弘、松戸隆之、椎名晋一:ユーザーフレンドリーな医療情報システムの開発 ―臨床検査システムのユーザーインターフェース改善への高性能ワークステーション採用の試み―、医療情報学、11:149-162、1991.

初版(論文集掲載)からの改訂内容

[rev1]
初版では印刷のためモノクロ化していた画面表示[図1]を実際の色で掲載した。
[rev2]
初版では印刷のためモノクロ化していた画面表示[図2]を実際の色で掲載した。

[-> Archives of Dr. mn's Research Works]