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Laboratory and Clinical Practice 15(1) : 22-26、1997

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医療情報

インターネットによる臨床検査情報の発信

西堀眞弘
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部

Information Delivery System for Laboratory Medicine Using the Internet

Masahiro NISHIBORI
Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University Medical Hospital, Tokyo

[published edition]
1.インターネットとは何か

 最近いろいろな分野でインターネットが爆発的な広がりを見せている。巷には解説書が山積みにされているが、いずれを見てもインターネットの全体像を知ることは容易ではない。しかし、テレビや放送局のしくみを知らなくても番組は見られるように、利用に当たっては必ずしも技術的な内容をすべて理解する必要はない。そこで、ここでは利用者の立場で最低限理解しておくべき特徴に絞ってまとめておくことにする。
1)手紙、電話、テレビ、ラジオ、パソコン通信など別々に行っていたあらゆる情報伝達・情報交換を、一元的にかつ革命的低コストで実現する世界規模のコンピュータネットワークである。ただし、今まで全く不可能だったことを実現する訳ではない。
2)通信の速度、品質やセキュリティーを保証する責任者がいない。費用が安いことの裏返しとして、送られる情報が正しいか、決まった時間内に届くか、中味を勝手に覗かれないか、途中で改ざんされないか等については全く保証がない。電子メールを例にとると、ボランティアがリレー式に運ぶ鉛筆書きの葉書のようなものである。
3)インターネットでは誰もが情報の受け手になれるだけでなく、誰でも情報の発信ができる。インターネットに接続するだけで、世界中のホームページが見られるだけでなく、自分のホームページから世界中に情報を発信することができる。
4)刻々と変化し規模・技術共に爆発的に自律成長しつつある。全体像や将来像についてはいろいろなことが言われているが、本当のことは誰にも分からないというのが実態である。
5)インターネットに関するあらゆる最新情報はインターネットで一番先に取り寄せることができる。その結果インターネットの利用者とそれ以外の人々では、ますます情報格差が広がってしまう。
6)インターネットを理解するには実際にさわってみる以外にない。最初のセットアップには苦労するが、いったん始めてしまえば難しい操作は必要ないし、閲覧するだけなら操作ミスによるトラブルの心配はない。

2.医学・医療分野での利用

 最初に利用が進んだのは、インターネット上に公開された遺伝子、蛋白質、微生物、癌治療などの欧米のデータベースである。今では国内外の大学、研究所あるいは病院の紹介や研究内容、患者教育の教材、医薬品添付文書、医薬品副作用情報などが閲覧できる。またインターネット上での学術論文の公開や、電子メールを使った医療相談なども始まっている。 臨床検査分野でも既にいくつかのホームページが開設されている。これらの具体的な紹介は他稿にまとめてあるので、そちらを参照していただきたい[1-3]。

3.臨床検査医有志による情報発信

 臨床検査医の実地医療活動は、検査診断支援、検査業務管理、外部精度管理指導、検査センター指導監督など多岐に渡るが、充足数をはるかに下回っているために、本来の社会的貢献が十分に果たせない状況にある。そこで、臨床検査医のネットワーク化と情報発信による社会的インパクトを狙って、臨床検査の最新情報を提供するともに、公開コンサルテーション、公開精度管理および公開研修コースなどの場を設けたホームページ(図1)が開設されているので、その概要をご紹介する。


図1 臨床検査医のページ

一番上の「ジャンプ:」の中にアドレスをこの通りに打ち込んでリターンキーを押すとこのホームページが表示される。



○臨床検査公開コンサルテーション: インターネット上に臨床検査医学のシンクタンクを創ろうという提言[4]から生まれたページである。臨床検査に関する質問を電子メールで受け付け、回答を返送すると共に一部を代表的なQ & Aとして順次掲載している。
○新規保険収載臨床検査項目: 新しく保険収載になった臨床検査項目の点数、算定条件、測定法、臨床的意義を順次掲載している。項目名からだけでなく、適用日付および点数表区分からも検索できる。
○世界の保健医療ニュース: 世界の保健医療情勢を刻々と伝えるWHOトピックスをセレクトし、翻訳して掲載している。臨床検査関連の話題と共に、エボラ出血熱、エイズ、狂牛病などホットな話題もある。
○臨床検査医ニュース: 日本臨床検査医会の年6回発行の会誌ではカバーしきれない新鮮な情報を掲載している。役員名簿、年間行事予定、各種集会プログラムなどの資料も公開されている。
○臨床検査関連の製品情報: 臨床検査関連の業務や研究に携わる方々と、関連製品を供給するメーカーやディーラーの方々との効率的な情報交換のために、商品情報掲載スペースを試験提供している。
○臨床検査公開サーベイ: ホームページの画像発信機能を利用して、形態検査の外部精度管理事業を試みている。インターネットにアクセスすれば、どこからでも鮮明な判定用画像が見られる(図2)。


図2 臨床検査公開サーベイの一画面

紙面でははっきりしないが、実際にはかなり鮮明な画像を見ることができる。



○臨床検査公開講習会: 臨床検査医学の卒後教育事業の一環としてホームページの利用を試みる。当面試験的にM蛋白判定用の免疫電気泳動像とその解説を掲載している。

4.社会的反響

1)アクセス数
 インターネット上で告知する以外は、日本臨床検査医会の機関誌等でのみアナウンスしたにもかかわらず、主に会員以外から多数のアクセスがあった。本稿執筆時点では1日平均16の異なるサイトから閲覧されている。また業界新聞での報道、関連商業誌への記事掲載、医学医療関係の単行本の中での紹介など、多数の反響を得た。()内にそれぞれ1995年11〜12月および1996年11〜12月のアクセス数を示す。
 表紙ページ(739→932)、臨床検査公開コンサルテーション(112→223)、新規保険収載臨床検査項目(98→206)、世界の保健医療ニュース(95→92)、臨床検査医ニュース(112→174)、臨床検査関連の製品情報(85→112)、臨床検査公開サーベイ(72→254)、臨床検査公開講習会(52→78)。
2)公開コンサルテーションに対する反応
 臨床検査技師、病院勤務医、産業医、大学生などの方々からさまざまな質問が寄せられ、各々その分野を専門とする臨床検査医に依頼して回答を作成したところ、多くが高い評価を受けた。中には難問のため多数の臨床検査医が連携して回答した質問もある。本稿執筆時点までに代表的なQ & Aとして掲載した質問数は、血液検査:2、生化学検査:11、免疫学的検査/血清検査:4、微生物検査:3、生理検査:1である。
3)臨床検査公開サーベイに対する反応
 精度管理について経験豊富な臨床検査医の協力を得て、1996年9月より2ヵ月に渡って第1回のサーベイを実施した。従来のスライド写真の代わりにインターネットでデジタル画像を配布するという方法をはじめて採用したが、実施期間中本ホームページへのアクセスは800回を超え、事前に何の打ち合わせもしていなかったにもかかわらず、各種病院検査部や医療従事者個人から正式な回答が電子メールで寄せられた。実施後公開している講評と模範解答を掲載したページへも、継続的にかなりのアクセスがある。

5.インターネット利用のリスクとその対策

 インターネットが大きな社会的効果をもたらすことに疑問の余地はない。しかしその反面、現状では信頼性およびセキュリティー面に大きなリスクが残されているので、臨床検査を含む医療情報を扱う場合は特別な配慮が必要となる。技術的対策の追求にはコストや使い勝手の犠牲を伴い、それを破って得られるメリットがコストを上回れば、ハッカーとのいたちごっこは不可避である。したがって実際の運用には、技術の限界と扱う情報の性格の両方を熟知したうえで、運用面の対策を入念に施すことが最も重要である。本ホームページに関しては、具体的な技術的対策については言及できないが、運用面では次の点に配慮して掲載内容を選択している。
・個別症例が特定される内容は扱わない
・即時性が要求される内容は扱わない
・閲覧者が他の手段で信憑性が確認できない内容は扱わない
 また、不当な複製や盗用を防ぐことが困難で事実上著作権を保護する手段がない点については、暫定的に次のような運用原則を設けて対応している。
・著作者の明らかでない、あるいは著作者の了解が得られない文書は掲載しない
・印刷物に掲載される文書は版権所有者に了解を得ず掲載しない
・掲載後内容が全く追加あるいは更新されない文書は掲載しない
 以上はすべて内規としており、ホームページそのものには情報の利用責任等について特別な断わり書きは掲載していないが、誤記の指摘を数件いただいた他は、内容の信頼性や信憑性についてのクレームは特になく、セキュリティー面のトラブルも経験していない。

6.おわりに

 インターネットは社会のあらゆる分野の変革をもたらす可能性が高いが、まだまだ多くの制約や課題を抱えている。かといってリスクを恐れ手をこまねいていてはそのメリットは得られない。それぞれの利用分野において、個別の情報を流通させる価値と危険性を十分に理解したうえで、技術的進歩に歩調を合わせ利用範囲をいかにうまく拡大していくかが、その将来性を左右する。幸い多くの方々の支持と理解を得て、本ホームページは今年度より日本臨床検査医会にバックアップしていただけることになった。今後も関連技術の急速な進歩が予想され、これらの追い風を受けて今後一層充実した情報の発信が可能となるであろう。

謝辞 「臨床検査医のページ」に掲載する貴重な情報をご提供いただき、また運用にご協力いただいている日本臨床検査医会有志の先生方に深く感謝いたします。

参考文献

[1]西堀眞弘、インターネットを活用した病態解析支援 日本臨床病理学会臨床検査情報学専門部会 第14回学術講演会、1996年3月30日、広島
[2]西堀眞弘、臨床検査ひとくちメモ No.131 インターネットは医療や臨床検査の分野でどのように利用されているのでしょうか、モダンメディア、Vol.42:31-35、1996
[3]西堀眞弘、インターネットで変わる医療 第7回日本光カード医学会論文集、13-16、1996
[4]木村 聡、検査医会への一提案 コンサルテーションに答えられる電脳情報網を創設しよう、LabCP Vol.13:128-129、1995
[5]西堀眞弘、インターネットを使って臨床検査医による診療支援活動をネットワーク化する研究、第16回医療情報学連合大会論文集、634-635、1996


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