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第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム

パネルディスカッション 第2部:医療の最前線におけるデジタル画像の活用とその色処理

デジタル画像と法医学

松井 清司,鈴木 廣一
大阪医科大学法医学

The 1st Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Medicine

Panel Discussion Part 2 :
Digital Imaging and Its Color Management in the Medical Forefront

Digital Imaging in Legal Medicine

Kiyoshi MATSUI, Hirokazu SUZUKI
Department of Legal Medicine, Osaka Medical College

Summary
Superimposing an image of a skull on an image of a face is one of the most effective method to identify a dead individual from his/her skeleton. Both of ordinary methods using photography and video require an actual skull, but a dead body must be cremated within a certain period.
In this paper, a new method is introduced, in which pictures of possible persons' faces and a skull to be inspected are digitized and superimposed using an advanced image processing software running on a personal computer (Fig. 1, Fig. 2). This software has enough functions to inspect essential characteristics required to decide whether the face agrees with the skull or not. This method is very useful and easy to use, but attention should be paid to avoid artificial or intentional manipulation of digitized images.

 はじめに
 法医学教室で行なわれる解剖のうち,とくに司法解剖には,死因の究明という医学的側面に加えて証拠収集という法的側面がある。したがって解剖の過程で得られた所見には法的意義が生じてくる。得られた所見は現状では2つの形で保存している。1つは鑑定医が解剖時に肉眼で観察したり,計測したりして得られる形,色,あるいは大きさといった文字情報であり,もう1つはそれらを含めて遺体に残されたあらゆる所見をそのままの状態で写真として静的に保存した画像情報である。写真の意義は視覚認識の客観的な記録にある。言葉で表現された色や形には必ず主観が伴うが写真は客観的な認識を可能にする最良の方法の1つである。鑑定対象が実物ではなく写真によって提供される場合もあり,法医学において写真の重要性はきわめて大きいといえる。
 鑑定対象は新鮮な遺体だけではなく,白骨化した遺体も含まれる。このような遺体は死因も身元も不明の場合が多い。しかしこのような遺体からも色々な情報を読みとることができる。その情報とは身体的特徴,性別,年齢,身長,骨折の有無,加齢変化,歯の治療跡,死後変化,血液型,DNA型などである。
 これらのうち,身元の特定に最も大きな力を発揮するのがスーパーインポーズ法である。本報告では,白骨に該当する人の写真と頭蓋とをデジタル画像化したスーパーインポーズ法の試みを紹介する。
 スーパーインポーズ法は白骨遺体の個人識別によく用いられる検査法の1つで,該当者の顔写真と頭蓋骨とを重ね合わせて両者の全体の輪郭,顔面各部の解剖学的位置関係を比較検討し,両者の一致の有無を判定することによって個人を同定しようとする方法である。
 この検査は古くから行なわれており,方法としては簡便な写真撮影法と複雑な装置を必要とするビデオ法が使われている。これら2つの方法は,検査を実施するときには必ず頭蓋骨とそれに該当すると考えられる人物の顔写真が必要である。しかし,多くの場合該当者らしい人物が見つかるのは後日であることが多く,その経過時間によっては白骨遺体は保管の問題から,一定期間後は火葬に付されている。そのような場合はスーパーインポーズに用いられる資料は解剖時撮影された写真だけとなる。そこでわれわれは,それらの写真をコンピュータにデジタル画像として取り込みコンピュータグラフィック(CG)スーパーインポーズ法での解明を試みてみた。

 1.方 法
 コンピュータ技術の発展によって,写真画像,動画,線画といったすべての画像情報をコンピュータ上でデジタルデータとしてハンドリングする環境が整い,数年前までは一部専門家の技術であった画像処理技術も簡単に扱えるようになった。われわれはMacintoshパーソナルコンピュータを用い,画像処理ソフトとして代表的な Photoshop の画像の重合機能を利用してスーパーインポーズを行なった。
 材料としては該当者と思われる人物の顔のスナップ写真数枚および解剖時撮影された頭蓋骨の写真数枚である。これらの写真の中から,顔写真の角度および撮影方向などが最も似ている写真を選択した。このスナップ写真と解剖時撮影された頭蓋骨の写真をコンピュータに取り込み,レイヤー機能を用い顔写真を背景にして新規レイヤーに頭蓋骨をコピーペースする。両者の複製レイヤーを増やしながら全体の傾きを補正する基準線や,位置関係を示す基準点,マークポイントを書き込んで行く。
 基準点となる代表的なポイントは頭頂点,鼻根点,鼻下点,口裂正中点,オトガイ点,頬骨弓点,内外眼角点,鼻翼点などである。
 不透明度を上下しながら自由変形ツールをアクティブにして,頭蓋骨の画像を縮小,拡大,回転を繰り返し行ない,顔面写真との傾きを補正し,基準点にもとづいて解剖学的位置関係などについて合致性を検討した。
 スーパーインポーズが出来上がった画像は,不要なレイヤーを削除し,画像の統合後プリントアウトする。

図1
Figure 1


図2
Figure 2


 2.結果と考察
 撮影方向が固定された2つの写真からスーパーインポーズを行なうためには,Photoshop のような高機能な画像処理ソフトが必要であり,その機能を使用することで可能になった。その操作は取り込んだ画像をレイヤーにペーストすることから始まり,変形機能を使用して頭蓋骨の傾きと大きさなどを補正していく。両者のマークポイントとの位置関係,全体的な輪郭などから頭蓋骨と顔面写真との合致性を検討する。コンピュータCGによるスーパーインポーズ法は頭蓋骨が該当者との同一人物のものであるかいなかを確かめる1つの方法として,大変有用である。
 Adobe Photoshopがバージョンアップされるに従い色々な機能も格段に向上した結果,スーパーインポーズ法も含めて色々な画像処理が簡単にパソコン上で行えるようになった。このために処理過程において,元の画像が知らず知らずのうちに逸脱してしまったり,また意図的な改ざんをうけたりする危険性もはらんでいることに留意しなければならない。
 同一人物に関して他の頭蓋骨を用いて検討してみたが,随所で不一致な点が生た。しかし,矛盾がない場合でもスーパーインポーズ法単独では同一人物と推定しうるにとどまる。最終的な判断は血液型,歯科情報,DNA型など他のデータと併せて総合的になされる必要がある。