はじめに 耳鼻咽喉科領域では,その対象疾患が基本的に露出部位に存在し,手術を行なう場合には術前後を始めとして経時的に観察を行なう必要があるため,画像記録を行なうことが多い。しかしながら,同一被写体であっても,光源などの露光条件・被写体までの距離・撮影する医師の好みなどにより一定の条件で記録できることは臨床的にはほとんどないと考えられる。また,露出部以外の耳内,鼻・副鼻腔内,喉頭の観察には内視鏡を用い,声帯振動の観察にはストロボ光源を用いるなど,撮影の条件も対象疾患により異なる。また,声帯の白色病変などに対しては色情報以外に高速振動体としての動的情報の記録が必要なため(デジタル)ビデオ記録が基本となる。 静止画に対しては一般にスチルカメラを使用するためさまざまなデジタル記録方法が存在する。その一方動画に関してはビデオカメラからの映像となり,ビデオ信号の規格により色情報や解像度に関しては静止画像ほどよくない状態であり,両者を同等に扱うのは難しいのが現状である(表1)。 そこで今回は,これらの現状をふまえたうえで,色情報がとくに必要とされる場合に臨床的に使用できるカラーチャートを紹介し,その処理方法を提示する。 |
2.撮影および処理方法 1)撮 影 CASMATCHを,▲印が描かれている辺を上方にするように患部に張る(図3)。グレイスケールシールの場合は正円形であるため適当な位置に張る。撮影に関してはフラッシュなどの反射光が入らないような角度で行なうか,もしくは接写用のフラッシュの使用が推奨される(カラーチャートの色をより正確に記録するのが重要となるため)。 図3 Sample画像 手の甲にCASMATCH を貼った状態で撮影。
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2)画像の記録・保存フォーマット 色調補正は,パーソナルコンピュータ上で行なう。Adobe Photoshop(3.0以降)を使用する場合にはマッキントッシュ(PICTなど)・ウィンドウズ(BMP など)ともにソフトウェアが取り込める画像フォーマットであれば,スキャナであってもデジタルカメラでの記録でもよい(実用上ほとんど制限がない)。通常は画像取り込み装置固有の画像フォーマットで保存されるが,各OSでの標準フォーマットでの出力ができるので変更しておく。 保存するときの圧縮に関しては,肉眼的にわからない程度であれば基本的には影響はないと考えられるが,CASMATCH がかなり小さく写るようなケースでは補正する場合の各色のサンプリングに影響が出始めるので,その場合には非可逆圧縮は避けた方がよいと考えられる。 CASMATCH を購入した正規ユーザにはPower Macintosh 上で動作するCASMATCH 用画像補正ソフト(CASMATCHER,表3)が提供され,これを用いると処理が簡単に行えるが,処理できる画像はPICT フォーマット(マッキントッシュ)に限定される。 グレイスケールのシールに対しては,Adobe Photoshop 用のプラグインファイルが用意されている。 |
3)画像処理 CASMATCHER は,CASMATCH 専用のアプリケーションであり,直感的に使用できるが,使用できる環境が限られているので(Power Macintosh で, PICT 画像が対象),後で簡単に使用方法を述べることとし,ここではマッキントッシュ・ウィンドウズ両 OS上で動作が確認できている Adobe Photoshopによる処理を紹介する(以後の名称は Photoshop 内のものを使用)。 a.画像情報を集める範囲の決定(スポイトツールの選択)「ツールボックス」内の「スポイトツール」をダブルクリックし,「スポイトツールオプション」を表示させ,「サンプル範囲」のプルダウンメニューより「5ピクセル四方の平均」を選択する(図4)。 図4 サンプリング範囲の指定(Adobe Photoshop) 画像の平均値を計算するためにどの範囲の画素を対象とするかを決める。
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b−1.最初に右端の「白のスポイト」をダブルクリックし,「カラーピッカー」ダイアログを表示する。最初に使用する場合には,この画面の R,G,B の値は,それぞれ 「255」,「255」,「255」なっているので(図6),それぞれ「228」,「228」,「228」と値を変更し,「OK」ボタンを押し元に戻る(図7)。 この時Lab,CYMK,HSB の値は計算され自動的に変化するので,そのままにしておく(表4)。 図6 カラーピッカー白補正前 図5で白のスポイトボタンをダブルクリックする事により表示される。最初は R (255), G (255), B (255)となっている。
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b−2.同様に,「グレーのスポイト」をダブルクリックし「カラーピッカー」ダイアログ内の R,G,B の値を,それぞれ「114」,「114」,「114」と入力し,「OK」ボタン押して戻る。 b−3.最後に,「黒のスポイト」をダブルクリックし「カラーピッカー」ダイアログ内の R, G, B の値を,それぞれ「35」,「35」,「35」と入力し,「OK 」ボタン押して戻る。 c.コントラスト・グレーバランスの調整(実際の変更) 「レベル補正」ダイアログの「白のスポイト」をクリックし,そのままの状態で,取得した画像の中に写っているCASMATCH の白の部分をクリックする。白補正後の画像が図8である。 同じ操作を「黒のスポイト」と「黒」の部分(図9),「グレーのスポイト」と「グレー」の部分に対して行なうと終了する(図10)。 図8 白補正後 黒・グレー・白に対してRGB 値を設定しなおした後,白スポイトを選んで,写っているCASMATCHの白の部分をクリックした直後の状態。
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d.CASMATCHERによる場合 PowerMacintosh 上で PICT ファイルを開くと,補正前後の画像が表示される(図11)。対象画像を操作しやすい大きさに拡大し,写っている CASMATCH の対角線上をドラッグし(図12),「補正実行」ボタンを押すだけで終了する。 図11 CASMATCHERの作業画面 画像を開くと,左側にもとの画像,右側に補正後の画像が表示される。
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3.結果・考案 基準となるカラーチャートにより,撮影する人間の癖にあまりとらわれることなく,又外来での光源,病棟・病室での蛍光灯などの影響もプリントしたあとの結果を見て一定のレベルに統一することができるようになり,患者さんの画像データを長期間にわたってより客観的に比較しやすくなってきた。デジタルカメラが200万画素が中心となってきており徐々にカラープリントやスライド写真との差を詰めてきているが,発色に関してはまだばらつきが多かったり,露出の面で白または黒方向に不足が見られることが多い。又画像転送後は,相手の使用するモニタの状況などがわからないことも問題であるが,そのような場合にも基準カラーチャートの貼付は役に立つ物と期待される。 露出の決め方はその時の撮影条件や撮影者の好みの出るところであるが,カラーチャートを同時に写し込んで置くことによりかなり補正が効く(図13,協和時計工業株式会社より)。またフィルムメーカーと現像による差が生ずることもあるが,これらに対しても補正が効き,カメラ・フィルムが異なっている場合においてもある程度の範囲で一定の画質に統一することが可能となる。 図13 露出の差の補正例(協和時計工業株式会社より) 露光の状態を上から順に 「+1」「 +1/2」「 標準露光」「−1/2」「−1」と変えて得られた画像が左側で,それぞれ補正した後の画像が右に表示されている。
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補正を加えるという事を考えると,最小限の補正にするのが最善の策である。撮影するときに注意を促すという観点からもカラーチャートの使用は今後より多く活用されると予想される。 今回は「デジタル画像の活用とその色処理」ということで,「静止画像が得られた」という前提のもとで処理について考案したが,実際にはさらに,入力部分として「いかに安定して一定した画像を得る環境を得るか」,出力部分として「最終出力形式(プリント,スライド,CRT モニタ,液晶モニタ,ビデオプロジェクタ,プロジェクタスクリーンなど)による発色の違い・感覚の違い」に関しても総合的に判断する必要がある。また動画に関しては,現在のNTSC 信号規格(とくにコンポジット)が色の部分をかなり犠牲にしており,その点に関しても静止画像とは異なる進歩を見せており,今後は両者を同じように考える環境もでてくるものと期待される。 |