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第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム

パネルディスカッション 第2部:医療の最前線におけるデジタル画像の活用とその色処理

消化器内視鏡診療の立場から

勝 健一
大阪医科大学第2内科

The 1st Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Medicine

Panel Discussion Part 2 :
Digital Imaging and Its Color Management in the Medical Forefront

From the Standpoint of Gastrointestinal Endoscopy

Ken-ichi KATSU
Department of 2nd Department of Internal Medicine, Osaka Medical College

Summary
Introduction of digital imaging with electronic endoscopy is expected to realize (1) computerized endoscopic diagnosis based on digitized image data, (2) computerized laser cauterization on the basis of automatic detection and targeting of early cancer and (3) real time superimposition of various referential data on endoscopic images.
Using electronic endoscopes and an image analysis system, digitized color data were collected from gastric mucosa of normal control, atrophic gastritis and early cancer and analyzed in respect of the difference in color. Statistical analysis could not discern any significant difference in color among these mucosa, but primary wavelength of light which comes from mucosa showed a significant difference between the normal one and the others. Besides, the affected area of mucosa could be detected and made visible by computerized image processing in one case of early cancer of the IIc type (Fig. 1, Fig. 2), and in one case of early colon cancer of an elevated type (Fig. 3), though in most cases this was not possible.
Further investigation and improvement of instruments are indicated to pursue the possibilities of digital imaging in gastrointestinal endoscopy, including the application of telemedicine and development of a referential case database for endoscopic diagnosis.

 はじめに
 内視鏡診断は直視下あるいは内視鏡画像の形態的特徴を判別して病変の診断をするアナログ診断法である。胃カメラやファイバースコープの時代から電子内視鏡といわれる体腔内小型テレビカメラが導入されてすでに15年が経過ごしている。しかし,現在の電子内視鏡診断法もファイバースコープの診断基準と同じであり,光学系の観察機器からテレビカメラに換っただけで診断に関する本質的な進歩はない。映像を電気信号に変換し,デジタル変換が可能であるテレビ内視鏡機器の導入は新たな時代えの進歩を期待させるものであった。電気信号であるために光学系と異なりテレビ画像の合成が可能であるために,内視鏡観察中に種々の生理的な情報をスーパーインポーズすることもできる。またCCDにより光電気変換が可能なレーザー光を映像として観察することも可能である。厚生省対がん10ヵ年総合戦略プロジェクトの体腔内小型テレビの開発に参加した際に,電子内視鏡画像信号から映像をデジタル保存し,色をJIS規格の光波長に数値化した後に,これを基に病変部との比較分析を行ない,コンピュータによる自動診断装置を開発するための基礎的研究を行った。また,アナログ映像の送信についても検討をしたが,UHF 波でテレビ映像の送信実験では色信号の非恒常性が明らかになった。その後インターネットおよびフォームページへの内視鏡画像掲示の検討をふまえて医療情報開示(患者が他の医者に相談したい場合)や紹介および診断コンサルト事業(遠隔医療相談および海外在住邦人のためのセカンドオピオンサービスなど)への発展を企図して現在検討中である。そのためには情報通信の基本として内視鏡のようなカラー画像情報では色の表示が診断に大きな影響を持つことは明白であり,色の診断資料はデジタル信号に変換することが必須であることが推察される。あわせて電子内視鏡のテレビ信号には他の情報の搭載も可能であるため,画像情報内中に内視鏡を用いた検査情報を含めることができることも確認している。これらの研究結果およびデジタル化による内視鏡治療法の将来的発展について以下のような可能性を考えている。
 (1)色分析(デジタル化)による内視鏡画像自動診断
 (2)YAGレーザービーム可視化の目的と原理およびがん病巣部選択的焼灼治療法の将来
 (3)電子内視鏡における種々のスーパーインポーズによる多情報搭載
 心電図,内視鏡直視下の粘膜表面 pH および粘膜電位(ポテンシアルデイファレンス),血流測定, 粘膜の硬さ(g/cm),温度,粘膜断面超音波像(B モード)などが可能である。

 1.方 法
 基本的な考え方としてカラーテレビモニターは測色計であり被写体の加色法にもとづく表色系の色再現手段として放送機器では見なされている。したがって,カラーテレビ表色系の三刺激値の RGB は XYZ系に変換することが可能と考えられる。さらに理論的には色彩学的な種々の解析法により電子内視鏡の画像からのデジタル画像解析が可能となると仮定した。この基本的な仮定により消化管用電子内視鏡の電気信号から画像を構成する色の波長分析と色差の測定を行なった。

 2.対象および方法
 対象は内視鏡的診断あるいは病理組織学的検索で確認された萎縮性胃炎4例,表層性胃炎5例,胃潰瘍5例とIIc 型早期胃癌2例の合計16症例(男性;6人,女性:10人,平均年齢56.7±8.3歳)の胃粘膜表面の261点にについて色度図,色差,主波長の分析を行なった。
 方法はOlympus Co.の電子内視鏡GIF-V10,およびGIF-Q200を使用した。電子内視鏡による映像は34症例をPIAS. CoのPersonal image analysis system:LA-555によりRGBの3分光をデジタルファイルした。映像はガンマー(γ)補正の入ったもの:gumma correction(+)と除去したgumma correction(−)の2とおりの画像をデジタルファイルした。ファイルした34症例の中から画像の照明光がほぼ均一で測定対象部分が正面から観察できる16症例について色の分析を行なった。
 解析にはJIS規格よるXYZ表色系のCIELUVによる色差表示およびxy系の色度図表示により主波長を表示した。波長は電子内視鏡の光源による測定値と標準光源のA,B,C,D50に換算した値を表示させるソフトを作成した。

 3.結 果
 測定結果では,モニター画面で測定部位が判別しやすいγ補正(gumma correction)の入っている映像信号で分析した胃潰瘍の症例では色度図のx軸において標準白色棒や白苔,潰瘍底と胃粘膜では0.4を境に明確に分離していた。しかし,y軸では小数点2以下の位で差が見られる程度の違いしかなかった。また,光源の波長特性や撮影条件の違いが測定値の違いを示すために病変の特徴的波長を表示しないことが判明した。同様に標準白色棒を挿入し,基準として粘膜表面の色差をCIELUV表色系で測定したが,粘膜表面の内視鏡所見と測定値の間には相関性が見られず,胃粘膜病変の特有な波長および色差の値を特定することは出来なかった。
 一方,明らかに面として内視鏡的に診断が可能な萎縮性胃炎の領域やIIc型早期胃癌の領域と正常粘膜の主波長分析の結果では,光源の種類とは無関係にγ補正(gumma correction)(+)の画像からの測定で萎縮性胃炎は正常粘膜とIIc型早期胃癌に推計学的に1%の有意差をもって主波長が短波長であった。また,γ補正(gumma correction)(−)の映像入力信号では正常粘膜は萎縮性胃炎およびIIc 型早期胃癌の間に1%の有意差をもって主波長は長波長であった。
 さらに胃粘膜病変と周囲粘膜間の色差抽出を行なったところ IIc型早期胃癌の1例(図1)で IIc 部分のにみならず病巣内の聖域まで描出された(図2)。しかし,他の症例では満足できる画像の抽出はできなかった。

図1
Figure 1An original image


図2
Figure 2The affected area and a normal one are displayed in different colors


4.考 察
 現在のところ内視鏡画像のコンピュータ自動画像診断に関する成果は以上しか成功していないが,恐らく世界で初めての画像と分析データと確信している。
 内視鏡画像として明らかに判別できる病変がコンピュータによる波長解析で明確な診断的優位性を示さなかったのはヒトの色弁別能力を超えた解析ソフトでなかったためと考えられる。すなわち,Wrightらによればヒトは 490〜590nm 近傍では1nmの波長弁別能力があると報告している。Bedford は視野角の狭小により判別力の低下を報告しているがそれでも論文中の図から推定すると4nm 程度しか低下していない。この事はヒトの色判別力の精度の高さに比較して現在まで使用していたパーソナルコンピュータと測定器機の精度が不十分であったためと考えられる。しかし,1症例であったが色差の抽出により早期胃癌の病巣部分を描出できたことはコンピュータ診断における病巣描出の可能性が期待される。今後,多くの症例において恒常的に病巣部を描出するには,そのための条件を解明しなければならない。電子内視鏡によるコンピュータ診断の理想としては癌などの病変に特有な波長を発見し,これをマーカーとして検索することである。また,同一画像内において推計学的に有意差をしめす主波長の部分を検索すれば早期胃癌か萎縮性胃炎,さらに癌病巣を画像として抽出できることが示唆された。さらに大腸内視鏡で発見された隆起型早期癌に於いて色差抽出法で同部が擬似カラーで表示されて(図3)おり,今後,症例の蓄積と機器のバージョンアップによりデジタル化電子内視鏡画像によるコンピュータ診断が可能となると考えている。

図3
Figure 3The area affected by early colon cancer and the normal one are displayed in different colors


 また,電子内視鏡像の無線伝送については前任地埼玉医科大学では内視鏡検査室において UHF のテレビ周波を用いて電子内視鏡の映像出力を発信し,通常のテレビおよび携帯テレビで検査中の内視鏡映像を学生達に供覧していた。将来はデジタル通信,通信衛星などにより地球上のいかなる地域で内視鏡検査をうけてもリアルタイムであるいは保存画像を,たとえば国立がん診断支援センターのような解析センターからのセカンドオピニオンや内視鏡診断書が得られる時代がくることを想定しての実験であった。当面はLAN,ISDNなどの全国的通信網によりデータファイルの蓄積を行ない,普遍的な診断を可能とすることが必要である。さらにデジタル診断とリアルタイム対応により検査時に内視鏡直視下に病巣を内視鏡レーザー焼灼システムとコンピュータと連動させることを期待している。すなはち,スクリーニング検査時に微小早期がんを自動的に焼灼することにより消化管進行癌の予防を期待している。また,画像内に心電図,内視鏡直視下の粘膜表面pHおよび粘膜電位(ポテンシアルデイファレンス),血流測定, 粘膜の硬さ(g/cm),温度,粘膜断面超音波像(Bモード)などの生理学的測定値を表示させ,胃潰瘍・粘膜下腫瘍や潰瘍性大腸炎の早期発見の可能性も期待している。