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第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム

パネルディスカッション 第1部:パワーユーザーと色処理専門家の連携で拓く新世界

デジタル画像の色のキャリブレーション技術の現状

三邊 眞吾
コダック株式会社プロフェショナル事業部

The 1st Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Medicine

Panel Discussion Part 1 :
Cooperation of Power Users in Medicine and Specialists of Color Technologies
for Pioneering a New Frontier

Recent Color Calibration Technologies for Digital Imaging

Shingo SAMBE
Kodak Professional, Kodak, Inc.

Summary
Essential factors and concepts of recent color management, such as the color space, gamut, profiles and so on are discussed. Rendering intent means the methods to adjust different gamuts and is of three types, perceptual (Fig. 1), colorimetrics (Fig. 2) and saturation (Fig. 3). A color management flow consists of regulation of ambient conditions and calibration of input and output devices (Fig. 4). The characteristics of color reproduction of monitors are measured by spectrometers (Fig. 5, Fig. 6). Features of some commercial products are referred (Fig. 7, Fig. 8,Fig. 9, Fig. 10,Fig. 11, Fig. 12,Fig. 13,Fig. 14).

 「デジタル画像の色のキャリブレーション技術の現状」というテーマを頂きましたが,今回は,「デジタル医用画像の「色」シンポジウム」ということですので,カラーマネージメントに絡んだお話をしていきたいと思います。カラーマネージメントにおけるキャリブレーションと一言でいっても,機器のリニアライゼーション,材料の特性カーブ,機器と材料の組み合わせによるマッチィング,アンビエントの状況など色々な項目があります。そこで,これらの中でどのような要素があるかをモニタ,入力および出力に関して今回説明をいたします。

 1.カラーマネージメントとは?
 さて,本題に入る前にカラーマネージメントに関して多少ご説明したいと思います。一般に,カラーマネージメントとカラーマッチングは,混同して考えられています。そこで,まずこれらの定義をしておきたいと思います。カラーマネージメントとは,複数の異なる機器類の色空間や再現特性,再現能力を一元的に管理することで,つまり「色を管理する」ということです。カラーマネジメントには,カラーマッチングやキャリブレーションなど色々な要素が含まれています。それに対し,カラーマチィングとは,ただ単に「色を合わせる」ということです。つまり,これらの大きな違いは,使用機器や材料のキャリブレーションによる一定の条件下においてカラーマチィングしているカラーマネージメントに対し,ただ単に色を合わせることだけを目的としたカラーマチィングとは一線を引いておく必要があります。

■ICC(International Color Consortium)の基準に準拠
 (ホームページhttp:://www.color.org)
■オープンな環境
■Internationalである
■客観的な判断基準

 2.カラースペース
 カラースペースには,以下の種類があります。

 RGB
 スキャナ・デジタルカメラ・モニタ・フィルムレコーダー等で用いられているカラースペースで,RED・GREEN・BLUEの光の三原色で定義されている。加法混色(RGB各色を混色していくと白になる)により色を生成をしていきます。RGBは通常0〜255(8ビットの場合)の数値で表されるが,それによって生成される色は装置によって違っています。(デバイス・ディペンデントカラー)

 CMYK
 プロセスカラーとも呼ばれ,印刷やカラープリンタで用いられています。シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(K)の4色から成る。減法混色(各色を混色していくと黒くなる)により色を生成してゆきます。RGBの補色であるCMYによって生成されたものからグレー成分を置換したブラック(K)を加えています。K版合成時にGCR・UCR等の処理がなされ,各チャンネルが作成される。インクや顔料の成分,不純物の量,印刷方式,気温,湿度等の要素によって発色が異なります。(デバイス・ディペンデントカラー)

 CIE XYZ
 CIE(Commission Internationale d'Eclairage / 国際照明委員会)によって定義された三原色(XYZ)による色の記述方法。標準観測者と呼ばれる多くの人間を被験者として行われた実験をもとに導き出された座標で,装置に依存しないデバイス・インディペンデントカラーとして定義されています。計測においては,主に発光体の色座標を表すのに使用されています。

 CIE Lab
 CIE XYZは色の絶対値としては問題はないのですが,我々人間にとって理解しにくいということで,より知覚的に理解しやすいカラースペースとして考案されたのがCIE Labです。縦軸にL(Luminance)をとり,それに直交する平面にa軸(+方向がRed, −方向がGreen)とb軸(+方向がYellow, −方向がBlue)をとったもので,色の絶対値を表しています。CIE XYZとは数値上の互換があります。計測においては,おもに物体の色座標を表すのに使用されています。

 デバイスインディペンデントカラー
 装置のカラースペースや特性に依存しないカラースペースのこと。色の絶対値を規定。三刺激値によって管理されたカラースペースを指します。

 デバイスディペンデントカラー
 装置のカラースペースや特性に依存するカラースペースのこと。同じ色を表現するのに装置によって数値(三刺激値)が違うカラースペースを指します。

 3.プロファイルとは何か?
 プロファイルとは,装置が色をどのように解釈し,表示するかを記述したデータファイルです。このファイルをPCS(Profile Connection Space)に伝える事によって,異なる色空間(カラースペース)やガモット(その装置が管理・再現可能な色の領域)間の変換を行うものです。ここでは,ICC(International Color Consortium)の規格に準拠したプロファイルの事を指しています。プロファイルの種類には,以下のものがあります。

 Monitor Profile
 モニタプロファイルは,ホワイトポイント(白色点)の色温度,RGB各色のガンマ値,Chemical Phosphor(蛍光体)の色座標等を計測し,それらの情報を伝えることによって,モニタのガモットをOSやグラフィックアプリケーションに伝達します。

 Input Profile
 スキャナやデジタルカメラの入力値に関する情報を記録したファイル。IT−8やMcBechチャートのようなターゲットを用いて濃度域や取得可能な色域,色相の偏り等を計測し,PCSへの変換式を記述します。

 Output Profile
 出力機の色再現特性を記したデータファイル。RGBとCMYKなどのカラースペースより,出力デバイスに合せて選択可能。フィルムレコーダーや銀塩露光タイプの出力デバイスではRGB, オフセット印刷やカラープリンタでは,CMYKを選択する。CMYKのアウトプットプロファイルでは,UCR /GCRの墨版合成テーブルを調整可能。

 Abstract Profile
 基本的に上記3種類のプロファイルは,色情報を正確に伝達する事に主眼が置かれてますが,Abstract Profileは出力時に,ユーザーの意志を反映させるためにあります。色カブリの画像を補正するプロファイルや特殊効果を加えたプロファイルがこれに当たります。

 Device Link Profile
 複数のプロファイルを組み合わせて作成された1つのプロファイル。入力プロファイルと出力プロファイルと1つあるいは複数のAbstractプロファイルの組み合わせで構成されます。たとえば,オフセット印刷をシュミレーションしてカラープリンタで出力を行う場合,オフセット印刷のプロファイルとカラープリンタのプロファイルを使ってDevice Linkプロファイルを作成します。

 4.Rendering Intent(レンダリング・インテント)
 つぎに,カラーマネージメントではどのような方法でカラーマチィングを方法を行っているのか説明いたします。違った色再現領域(ガモット)をどのように調整しているのかという変換方式をRendering Intentと呼びます。Rendering Intent には,代表的に3種類の方法がございます。

 Perceptual(図1)
 Perceptualとは,再現可能なガモット内の色も全て変換されます。全てのピクセルに対して変換が適応されるため,画像のピクセル数が多いと変換に時間がかかります。全体に彩度・明度の落ちたやや暗くくすんだトーンになりますが,変換前のカラースペースでの色の相対関係を保持しているので,写真等の変換に向いています。

図1
Figure 1Perceptual Rendering Intent


 Colorimetrics(図2)
 Relative Colorimetricsとは,はじめにダイナミックレンジを圧縮しその後,再現可能な領域はそのままで,ガモットの外に溢れた色のみを対象に,明度を可能な限り保持したまま,彩度を落として変換を行います。ダイナミックレンジを圧縮して変換を行うため,ハイライト部とシャドー部の再現性が低下します。ダイナミックレンジの広い画像や,ハイキーあるいはローキーな画像には不向きな変換といえます。
 Absolute Colorimetricsとは,Relative Colorimetricsとは反対に,ダイナミックレンジを圧縮せずに,再現可能な領域はそのままで,ガモットの外に溢れた色のみを対象に,明度を可能な限り保持したまま彩度を落として変換を行います。再現可能領域の色は正確に変換されますので,カラーサンプル等の変換には最適です。しかし,ハイライト部分およびシャドー部分でレンジの外にはみ出した色をクリップするため階調性が著しく低下します。ダイナミックレンジの広い画像や,ハイキーあるいはローキーな画像には不向きな変換といえます。

図2
Figure 2Colorimetrics Rendering Intent


 Saturation(図3)
 Saturationとは,彩度を可能な限り保持したまま明度を落として変換を行います。彩度が強調された,いわゆるハイサチュレーションな画像に変換されるため自然な写真画像等には不向きといえます。プレゼンテーションに使われるグラフやチャート等の変換に最適です。

図3
Figure 3Saturation Rendering Intent


 ※ICC準拠のプロファイルを使用した画像の変換にはRendering Intentが深く関与しています。画像の使用目的や変換するタイミングやアプリケーションを考慮して適切なRendering Intentを選択して下さい。
 ※現在のところ,日本語での統一した訳語が使用されていないため,Rendering Intentという呼び方を含めて,全ての呼称に原語(英語)を使用しています。

 5.カラーマネージメントフロー
 では,つぎにセミナーテーマであるキャリブレーションに関して,話しを絞って進めていきたいと思います。まず,カラーマネージメントのフローに関して説明をしていきたいと思います。図4のように,りんごの赤を各段階で現してフローにしたものです。ここで,最初にりんごを取り巻くライティングを考えてください。たとえば,印刷標準である5000度Kの蛍光灯の下と白熱電球の下では,りんごの赤は違う色に見えます。これが,アンビエントの違いによるカラーの変化ということになります。つまり,アンビエントの状況によって大きく色が変わることが理解いただけたと思います。このように,アンビエントの状況を一定にすることからカラーマネージメントは始まります。それは,ライティングの色温度,モニタの色温度およびビュアーの色温度を一定にすることです。つぎに入力機,モニタや出力機のキャリブレーションを行うのですが,これらについてはもう少し詳しく説明します。

図4
Figure 4A color management flow


 マルチ分光測色計
 コダックでは,入力と出力については機器および材料を生産し販売をしておりますので,もう少し詳しくご説明してまいりますが,その前に,モニタの一般的な話について触れてみます。モニタは,ブラウン管に塗られている蛍光体の種類によって分類されます。代表的なものは,EBUとP22という蛍光体です。また,最近は蛍光体の種類でない分類としてマイクロソフト社やHP社によるsRGBという新しい規格も提唱されています。コダックでも,カラーマネージメントを行う時の重要なポイントとしてモニタをチェックしておりますが,測定などにも色々な問題があるようです。図5の測定器は,フォトリサーチ製のマルチ分光測色計(旭光通商株式会社様提供)ですがこの測定器を使ってモニタを測定してみますと次の図6のようになります。

図5
Figure 5A spectrometer



図6
Figure 6Performance of a color monitor measured by the instruments shown in Fig.5


 図がわかりにくいと思いますが,sRGBをはじめとした良く使われるカラーモニタを測定した結果です。測定結果は,あまり変わりません。このように,モニタの性能は蛍光体で決まりますので,この辺に測定結果があまり変わらなかった原因があるようです。また,測定に使用した分光測色計もキャリブレーションが重要で,キャリブレーションによっても測定誤差が多いので,これらの誤差も考慮する必要があるようです。
 モニタの話しは,この辺にしておきカラーマネージメントのフローに戻ります。コダックでは,入力と出力に対し機器と材料を販売しておりますが,この中で,カラーリバーサルフィルムE100VSとデジタルカメラDCS520/560および昇華転写プリンタKDS8650について説明をいたします(図7)。

図7
Figure 7A flow of color management using particular products


 E100VSとカラーフロー
 まず,カラーリバーサルフィルムE100 VS(図8)について説明します。E100VSは,この4月に発売されたばかりのE100ファミリーのカラーリバーサルフィルムです。このフィルムの特長は,実行感度100においてサチレーションを強調した点にあります。

図8
Figure 8A color reversal film E100 VS


 このE100VSの色の表現領域を測定してみますと,現行のE100Sに比較してサチレーションが高くなっていることがわかります(図9)。しかし,これだけを見ますと何らサチレーション以外に特長の無いフィルムのように感じられますが,E100VSはE100Sと同じ色素を使用している為,今までのE100ファミリーの特長である安定したグレイバランスを継承しています(図10)。

図9
Figure 9Performance of E100VS



図10
Figure 10Gray balance of E100VS


 このようにE100VSは,高いサチレーションと安定したグレイバランスを持つフィルムです。カラーマネージメントにおいては,これらの要素がかなり重要になります。コダックにおいては,フィルムをはじめとした入力関係の製品は,これらの点を重要視して開発をしております。

 DCS 520/560とカラーフロー
 デジタルの入力としてデジタルカメラをご紹介しましょう。コダックでは,プロフェショナル向けデジタルカメラを供給初めて7年以上になります。この間に,色々なお客様のご要求を開発にフィードバックし改良を続けてまいりました。先程申し上げましたように,コダックの入力関係の開発ポリシーとして安定したグレイバランスを持つ事はもちろんとして,デジタルカメラ速報性を追求しワンショットカラーデジタルカメラを開発してまいりました。しかし,このワンショットだから起きる色ずれはなかなか大きな問題でした。このたび発売になりましたDCS520/560/620デジタルカメラ(図11)は,これらの色ずれを新しく開発されたITO CCDセンサーを用いることによって解決致しました。

図11
Figure 11Digital camera DCS520/560/620


 ITO(Indium Tin Oxide)センサーとは,今まで色ずれの原因である青の感度を上げることにより,赤,緑,青のグレイバランスを改善しました(図12)。これによって,ワンショットカラーデジタルカメラの欠点である色ずれを解決すると共に,今までに無い安定したグレイバランスを実現致しました。以上のように,カラーマネージメントを行う際入力には安定したグレイバランスが,必要な条件となります。

図12
Figure 12Gray palance of DCS520/560/620


 KDS 8650とカラーフロー
 では,出力ではどのようなことが必要でしょうか?安定したグレイバランスも必要ですが,やはり広い色領域を持つことと安定した色品質が重要になります。これは,自然界に存在する色領域や入力フィルムや機器の色領域に対し,出力機器の色領域の方が一般的に狭い為です。図13にありますKDS8650は,昇華転写プリンタとしてはかなり広い色領域を持ったプリンタで,写真品質に近いプリント出力が得られます。また,ラミネート付きプリントも選べますので,対光性についても問題がありません。また,コダックは唯一この昇華転写プリンタマーケットにおいて,機器と消耗品フ両方を生産している会社ですので,メディアおよび機器の安定性においても定評があります。

図13
Figure 13Digital camera DCS520/560/620


 コダックカラーフロー
 以上,「デジタル画像の色のキャリブレーション技術の現状」というテーマで色々例を上げて説明してきました。やはり,精度の高い色のキャリブレーションを行うには,機器と材料双方とその組み合わせによる高いコントロールが必要になります。また,今回は説明の機会がありませんでしたが,図14の「カラーフロー」はコダックのカラーマネージメントの新しいブランドであります。これらのソフトウェアを使用していただくことによって,より高い精度のカラーマネージメントの実現を提供が出来るようになっております。

図14
Figure 14Kodak color flow