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第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム

基調講演

急展開する医療のマルチメディア化と色情報の重み

田中 博
東京医科歯科大学情報医科学センター

The 1st Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Medicine

Keynote Address

Rapid Progress of the Multimedia in Medicine and
the Increasing Importance of the Color


Hiroshi TANAKA
Information Center, Tokyo Medical and Dental University

Summary
A rapid spread of the information technologies in medicine is characterized as follows: (1) these are multimedia-centered with intensive use of the network based on the open policy, (2) the performance of these technologies is catching up the level of medical requirements, (3) legal bases for their spread are going to be well prepared owing to the existence of the sufficient social consensus, (4) standardizations of medical records and medical procedures are ready to be established.
Given this situation, some rules for transferring color data is urgently required in medical field because inaccurate reproduction of colors of medical images may lead to erroneous diagnoses. For this purpose, (1) an appropriate discussion group should be prepared by various medical professions and specialists of related technologies, (2) we should know the concept of 'diagnostic equivalence', which means that two displays which reproduce colors differently are considered as equivalent if the same diagnosis can be made observing a medical image reproduced using each of them, (3) the illuminant conditions at which the image was acquired and the specifications required for accurate image reproduction should be transmitted together with the digitized images.
[-> summary of oral discussions].

 1.医療の情報化の現状―急激な進展
 1)医療は今後マルチメディアを中心に展開する
 最近の医療を取り巻く情報技術の進展は目覚ましく,ここ数年マルチメディア技術の発展とくに音声や動画などのデジタル化技術によってメディアに関係なくこれらの情報が統一的に電子的に取り扱えるようになり,これまで限られた医療情報のデジタル化を意味した「電子カルテ」も実質的な意味を持つようになってきた。またネットワークもインターネットの著しい普及に触発され,さらには将来的技術として高速マルチメディアネットワーク(ギガビットネットワーク)計画など,「遠隔医療・在宅医療」を支えるインフラストラクチュアもここにきて急速に整備されてきている。
 医療における画像技術の発展は今では精緻な三次元画像を再構成をほぼルーチンの処理にするようになり,バーチャルリアリティ技術の普及は医学の新たな分野すなわち仮想化医学という分野を創出しつつある。医学に関するだけでなく情報技術はここ数年,オープン化,マルチメディア化,ネットワーク化で象徴される動乱期を迎えて,その姿を一新している。上に述べたことはこれらの情報技術の革新の医療への反映といえよう。

 2)情報技術が医療の情報の要求水準に追いつきつつある
 そもそも医療は本来多種類のメディアを駆使して診断を行っていた。その意味では,もともとマルチメディア的であったといえる。病名などのコード,臨床検査値のような数値,心電図などの時系列波形,X線のような静止画像や超音波などの動画,などさまざまなメディアを使用して診療を行っていた医療において,これまでの医療の情報化は,文字型データや数値として表される情報しか電子化されなかったため,その意味ではトータルなものではなかった。最近のマルチメディア技術の発展によって医療の情報化を漸くその全幅に置いて実現することを可能にしつつある。
 遠隔医療も1970年代からこの試みは始まっており,離島からの心電図伝送などの試みも多く実験されてきました。しかしもともと医療はマルチメディア的な患者情報を扱わなければならない医療で,一般の電話回線で伝送できるものは限られており,本格的展開のためにはより情報量が多い光ファイバーによる ATM 方式のマルチメディア方式が実現でき,デジタルで動画像が伝送できる程度になって初めて本格的な医療の情報化への条件が揃ったといえよう。

 3)医療の情報化を支える法的=社会的な基盤
 また医療の情報化を支える社会的・法的側面に関しても,厚生省などの関係官庁も電子カルテプロジェクトを推進したり,病名標準マスターの作成や遠隔医療に関する検討を開始したりして情報化に積極的になっており,情報化に伴う医師法等の法的整備への着手され,遠隔医療の適法性については1997年12月の「情報通信機器をを用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」の厚生省通達で対面診療を補完するもととして認められた。さらに,画像等の共通規格に関しては,1988年の「診療録の記載方法について」でワードプロセッサの使用が認められ,1994年6月には「X 線写真等の光ディスク等への保存について」という通達が提示されたが,最近,「診療録等の電子媒体による保存について」に通達で真正性,見読性,保存性の保証のもとこれが認められた。このようにさまざまな要因,医療の情報化,マルチメディア化とネットワーク化の実現の前提となる条件はすべて満たされた。これはあたかも収斂するようにこの数年で起こったことである。したがって次の5年あるいはそれ以内の時間スケールで,今も進行している医療の情報化が医療全体の姿を変えるまでに本格的な展開期が到来することは確実であると思える。

 4)情報化の土台としての患者病態情報と診療行為の記載方法の標準化
 このような医療の情報化への技術的・社会的前提条件の成熟に加え,医療の情報化を実現する重要なもう1つの要件は,一言でいえば「標準化」であるが,これには多くのレベルがある。まず第1のレベルは,「病態と診療行為」の記載方法に関する標準化である。すなわち患者の病態や診療行為を記載するときに使用する用語や記載方法の共通性が確立すれば,情報化は単にその医療施設内だけでなく医療施設間にわたって情報を共有することができ,患者をケアする複数診療施設間の連携が可能になる。
 標準化においては診療の用語だけではなくもちろん医療施設間でこれらのデータを送受信を行なうときには,さらにこれに通信規約や記載文法 (HL7)および診療データ形式などが必要である。この1つでも標準化のレベルが低ければ,実質的な標準化が達成されないことも確かである。さらに診療の記載方法の標準化としては,用語だけでなくDICOMのように診療というコンテキストを記載する表現方法の標準化も必要となる。さらにもっと一般的に「ケアマップエディタ」など診療プロセスの表現システムの共通化へと広がる。これらの共通化・標準化は医療の情報化に不可欠な土台を構成するものであるが,上に述べたように標準化の中に階層があることすなわち医療情報の階層性の構図に対しても次第に理解が深まってきている。

 2.医療色情報の通信における規格化について
 1)色情報の重要性と医療色情報を協議する場の必要性
 このように医療情報のマルチメディア化・ネットワーク化に関与する諸般の状況はここ数年で急展開している。しかし,これまでの医療情報では,濃淡画像の量子化レベルや密度についてのみ議論が集中した。これはこれまで画像の電子化というと,放射線領域で多くの点が議論されてきたことによる。しかし,ネットワーク医療時代は,画像伝送というより,リアルタイム通信も多く,その多くは現に進行している医療行為の通信であることも多くなってきた。その意味では現実の伝送であることが重要な要素になる場合が多い。すなわち,遠隔化と仮想化が中心となるネットワーク医療時代では,遠隔現実(tele-existence)こそが中心となる。このとき,これまでは議論が少なかった色情報がこの点で重要になることは必然である。
 色情報と通信の関係は,本シンポジウムのパネルディスカッションでも明らかなように病理組織診断,内視鏡,皮膚科診断などでこれまでも先取的な研究は多い。また色再現技術に関しても個々に高い技術成果があげられている。しかし,これまでは医療における色情報と通信医療全体としてこれを協議する場がなかった。その意味でまず重要な,医療の各分野をまたぐ「色情報の通信に関する協議を行える場」の形成の緊急性は高い。このような討議の場と各分野での研究の交換を行なう横断的協議組織の必要性をまず共通に認識する必要がある。

 2)医療色画像通信における標準化の原則:「診断等価性」
 さて医療の各分野の色情報の通信による再現性の問題は,これを技術的に取り扱うときたとえば,病理組織診断,内視鏡,皮膚科診断などで異なる要求水準になるかもしれない。またさまざまな補正方式が技術的にも考えられるであろう。したがって,ネットワーク医療時代の色情報の扱いは,あまりにも子細に特定の基準や技術方式を強要することであってならいないであろう。最近の厚生省の診療情報の電子化に関する通達のように,行政が子細に標準化の方式を指定することはない。むしろ特定方式の技術的標準化ではなく,診療情報の保存に見られた真正性,見読性,保存性の保証に対応する原則は何かを明確にする必要がある。そのような原則が,色画像の医療における通信のガイドラインを決める方針をあたえるものであろう。それは,色情報を用いた診断の再現性という観点から検討しなければならない。それは「医療色情報の診断等価性」ともいえるかと思われる。その色情報を用いた診断が送信側と受信側で同等な診断を導く場合,その色情報は医療診断にとって等価といえる。この診断等価性はどのようにして樹立されるのか。古典的には診断の感度・特異性分析を通してである。
 どこまでの統計的変動性の中で診断等価性を決定するか。そのような研究が必要であり,ここに色彩情報技術の専門家とその領域の診断専門家との協力が必要となろう。この等価性・診断同等性の原理のもとに各分野における色情報の再現の厳しさや許容範囲が決定されるであろう。その意味ではわれわれは通信によって何を保存するのかを明確にし,この観点から色情報通信のガイドラインを作って行かねばならない。

 3)医療色画像の規格はどうあるべきか
 現在,DICOMの規格では画像を収集した臨床的コンテキストを決まった形式で書くことが定められている。色情報の伝送における規格化が進展した折には,医療情報を採集した環境,再現にあたっての指定などの情報が色情報とともに明確になっている必要がある。したがって,これらの情報が改竄されずに画像情報に織り込まれて伝送されることによって再現性が保証されるであろう。どの程度の再現処理への指定になるかは,上に述べた診断等価性の原則から各種画像で個別に決定され,それは画像情報とともに送られる方式になるかと考えられる。いずれにせよこのような方式を原理として柔軟性をもって協議することが必要となろう。
質疑応答の要旨
summary of oral discussions


[フロア] 色を完全に一致させるのは不可能だが、差がどこまで許容されるか定量化できないか。
[from the floor] It is impossible to make colors which are reproduced by different displays completely equal to each other, but we need some quantitative representation of the allowable difference of colors in medical use.
[演者] 複数のDrでROCを検証する以外良い方法はない。
[speaker] There is no better way than the investigation of the difference using the ROC charts sampled from a number of experienced physicians.
[フロア] 学問と教育で解決するしかない。
[from the floor] Scientific researches and education are the only possible solutions of these kind of problems.