その社会では、政治的な意思決定の様式も大きく変わる。あらゆる政治案件についての政策立案を世界中のコンサルタント会社が競い、投票によって選択されたのものが、入札に勝ち残った実施会社に発注される。良いことばかりではない。既得権やコネだけにすがって権益を享受してきた政治家や企業は、有権者や顧客から紙切れのようにうち捨てられる。また生きるために必須の情報からゴミ同然の情報まで、すべての情報がネットワークから絶え間なく供給され、旧来のメディアはその補完に過ぎなくなる。したがって新たなネットワーク・リテラシーが必須となり、無限の情報源から必要なものを間断なく選別していく能力、そして害を及ぼす情報から自分や家族を守る能力を身に着けなければ、生きていくことはできない。
医療面では、いつでもどこでも、ネットワークを通じて知りたい健康情報を得たり、世界中から選んだ好みの医療機関で健康管理を受けることができる。そして、いざというときには直ちに適切な専門医への受診が手配され、まったく症状がない段階から最高水準の発症防止技術が施される。不幸にも予防に失敗した患者のみが投薬あるいは手術の対象となり、治療後はその端末を使って症状緩和に必要なケアを受けながら、できるだけ健常人と同じ社会生活を送る。
検査室では文献検索や専門家との相談、業者への問い合わせ、検査センターへの依頼と結果受け取り、さらには分析装置のメンテナンスや精度管理もインターネット経由で行われる。医療機関も互いにインターネットで接続され、患者が何か所受診していても、検査データを互いに取り寄せ、連携した診療ができる。家庭や職場では、検診センターとインターネットで結ばれた簡便なセンサーを使って、いつでも健康チェックが受けられる。
このような時代が到来したときに、臨床検査システムがどのような姿で存在するのか、具体像は誰にも分からない。しかし、インターネットをどのように利用するかを考えるのではなく、ハイパーネットワーク化する社会の中で、われわれの属する学問領域および医療分野が適応していく重要な道具として、新しい臨床検査システムのあり方を考えなければならないことは確かである。
おわりに
ネットワークがもたらす社会は、人類が未だかつて経験したことのない、厳しく残酷で、かつ無限の可能性と希望に満ちた社会である。しかしネットワークそのものは単なる技術に過ぎない。その光と影のどちらの側面を享受することになるかは、私たち次第である。ひとりひとりが自分なりの時代認識を持ったうえで、安全で効果的な利用法を工夫し、慎重に選択を重ねることが、より実りある検査情報システムを実現するための原動力として不可欠なのである。
なお、本稿はインターネット上で公開しており、引用した文献は文字をクリックするだけで呼び出せるようにしてあるので、こちらもご参照いただきたい(http://square.umin.ac.jp/mn/work19990903.html)。
文献
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http://square.umin.ac.jp/mn/jjcp38-0273.html)
[2]西堀眞弘、椎名晋一:検体検査トータルシステムの開発(第1報)、日本臨床検査自動化学会会誌第22回大会予講集、452、1990(
http://square.umin.ac.jp/mn/work19900908a.html)
[3]西堀眞弘、椎名晋一:検体検査トータルシステムの開発(第1報)、臨床病理、38補冊、140、1990(
http://square.umin.ac.jp/mn/work19901014.html)
[4]Masahiro Nishiobori, Shin-ichi Shiina: A Total Automation System for the Clinical Laboratory, Abstracts of the 16th World Conference of Anatomic and Clinical Pathology, 10, 1991(
http://square.umin.ac.jp/mn/work19910626.html)
[5]西堀眞弘、椎名晋一:検体検査トータルシステムの標準化構想について、日本臨床検査自動化学会会誌第23回大会予講集、354、1991(
http://square.umin.ac.jp/mn/work19910907a.html)
[5']西堀眞弘、奈良信雄、椎名晋一、萩原三千男:検体検査トータルシステムの検体管理 ―検査精度に影響する因子のトータルな管理を目指して―.臨床病理、 40補冊、236、1992(
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[6]西堀眞弘、萩原 三千男:医療現場におけるコンピュータ応用の現状 臨床検査領域におけるコンピュータ応用の実際、臨床病理、47、132-145、1999(
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