【はじめに】 私共は21世紀にふさわしい先進的な臨床検査を実現するため、従来とは全く異なる発想に基づき、新しいアイデアを取り入れた「検体検査トータルシステム」の開発に着手し、その基本構想である「7つのトータル化」について
第22回大会で報告した。今回はその中の「トータルな柔軟性」およびそれを支える「トータルな標準化」を目指して技術的検討を進めている、より具体的な構想について報告する。
【目的】 本システムの主要な構成要素となる分析装置は、医療現場のニーズの変化や技術の進歩に伴い、頻繁に更新、追加あるいは機能変更が行なわれるが、従来の検査システムではその都度コンピュータシステムに手を加える必要が生じるため、少なからぬコストが発生してシステム化推進の大きな障害となってきた。さらに今後は検体搬送の自動化により、搬送システムと分析装置の間にも同様の問題が発生し、折角構築したシステムの寿命を著しく縮めるおそれが強い。そこで、検査システムの構成要素をインテリジェント化したモジュールとして部品化し、各モジュール間のインターフェースを標準化することにより、分析装置などの機器を交換する際に必要なステムの修正を最小限にし、システムのライフサイクルをスムースに継続させることを目指す。
【方法】 検体セットや項目指示の手順、測定結果出力様式、最適と考えられる精度管理手法やそれに必要な情報は分析装置ごとに異なるから、その多様性を吸収するためコンピュータを用いて各々の分析装置をインテリジェント化し、ホストコンピュータからすべてを同じ通信プログラムで制御できる分析モジュールとして扱えるようにする。通信回線は容量・柔軟性からネットワーク型が望ましいが、過渡的にはRS232C方式でも可能と思われる。ただし現状では一部の制御機能を省略したさまざまな簡略仕様が混在し、しばしば混乱を招いているので、その統一が不可欠である。
検体搬送ラインと分析モジュール間の検体受け渡しは、すべて同じハードウエア仕様で、かつ制御情報が有機的にリアルタイムで交換できる状態が理想であるが、現状では検体のセット方法や吸引方法は分析装置ごとに異なるから、その統一が実現するまでは、各分析装置と検体搬送ラインの間に検体搬送ロボットを介在させ、それらの多様性を吸収する。
ホストコンピュータの機能は検査情報管理と機器制御の2つ分けられ、前者はデータベース管理、後者はリアルタイム数値制御が主となるが、これらの機能は密接に関連するので、それぞれを独立したモジュールとして分離するのは困難と考えられる。
ホストコンピュータ以外の構成モジュールは、A. 検体搬送ライン、B. 前処理モジュール、C. 分析モジュール、D. 検体保管モジュール、E. 試薬供給モジュール、F. 廃棄物処理モジュールからなる。また標準化すべきインターフェースは、A. 分析モジュール―ホストコンピュータ間、B. 前処理/分析/検体保管モジュール―検体搬送ライン間、C. 検体搬送ライン―ホストコンピュータ間、D. 前処理モジュール―ホストコンピュータ間、E. 検体保管モジュール―ホストコンピュータ間、F. 試薬供給モジュール―ホストコンピュータ間、G. 廃棄物処理モジュール―ホストコンピュータ間である。なお各々の詳細は発表当日報告する。
【評価および将来計画】 以上の構想を技術的に検討したところ、試薬供給モジュールと廃棄物処理モジュールおよびそれらと分析モジュール間のインターフェースについては新技術の導入が不可欠であるが、その他の部分については具体的仕様の立案が可能であることが明らかにされた。新技術が開発されるまでは人間がその部分の機能を果たす必要があるが、大筋において本構想の技術的妥当性は確認されたと考えられるので、今後もこれに沿って作業を進めて行く予定である。