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[ Document Identification Number : DIN00032508 ]
Proceedings of the 2nd Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Biology and Medicine,
8.1-8.5, 2000.03.25
<http://biocolor.umin.ac.jp/sympo200004/proc18.pdf>
第2回デジタル生体医用画像の「色」シンポジウム

パネルディスカッション「デジタル生体医用画像の色のあり方」
―その2:医療ニーズからのアプローチ―

形態検査画像のデジタル化により生じる問題点とその対処法

西堀 眞弘*1*2 (mn.mlab@tmd.ac.jp)
*1文部省形態検査インターネットサーベイ研究班
*2東京医科歯科大学医学部附属病院検査部


The 2nd Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Biology and Medicine

Panel Discussion "What the 'Color' of Digital Imaging in Biology and Medicine Should Be"
- Part 2 : Approaches From the Needs in Medical Practice -

Problems and Solutions of Digital Imaging in Morphological Diagnosis

Masahiro NISHIBORI*1*2 (mn.mlab@tmd.ac.jp)
*1Morphological Internet Survey Research Project Team
*2Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University Medical Hospital

Summary
Recent rapid spread of digital imaging in medicine is outpacing the medical verification of diagnostic usefulness of digital images. As a temporary measure to cope with this situation, model concrete problems and their solutions are proposed on the basis of earlier investigation by the Morphological Internet Survey Research Project Team (http://survey.umin.ac.jp/).
These problems include inaccurate color reproduction, rough gradations of color and insufficient density of pixels, with varying degrees of relevance as regards their seriousness in the areas of urinalysis, hematology, microbiology, immunology, cytology, chromosome analysis, physiology and ultrasonography.
In order to prevent erroneous diagnosis caused by these problems, digitized files are required to be displayed using both a CRT and a flat panel display, followed by examination and revision by specialists of the respective fields before putting them into practical use.

1.はじめに
 形態検査インターネットサーベイ研究班は文部省が7大学から9人の研究者を募り、それを核として臨床検査医学あるいは臨床病理学の各分野から総勢40名弱の研究者を鳩合して、1998年に組織したものである(詳細は研究班ホームページ http://survey.umin.ac.jp/ 参照)。当初の研究目的は、従来より設問用の画像をスライド写真にして配付していた形態検査のコントロールサーベイに、インターネットを導入して、それらの画像をホームページに掲載して配付できるかどうかを検討することであった。しかし、研究途中でデジタル画像の色の標準化が喫緊の課題であることが明らかとなったため、表示装置の色再現性能を如何に較正するか、あるいは表示装置で再現された色が正しいかどうかを如何に確かめるかという課題に取り組み、新たな研究領域の確立と、昨年の本シンポジウムを含む各種学会における暫定的対処法の提言に至った【1-7】。
 しかし実際には、厚生省が電子カルテの導入に踏み切ったことを契機に、デジタル化の波はその妥当性の検討の結論を待たずに、形態検査領域にも急速に押し寄せつつある。そこで今回は、これまで研究班が一般、寄生虫、血液、微生物、免疫血清、病理細胞診、染色体、生理、超音波等の膨大な形態検査画像をデジタイズし、その診断精度を検討してきた経験から明らかになってきた、実際に起こりうる問題点と、考えられる対処法について報告する。

2.デジタイズの方法
 全ての画像はスライド写真をオリジナルとし、Kodak Photo CDシステムでデジタイズした後、原則として320ピクセル×240ピクセルの解像度で保存し、診断精度が保たれるようにAdobe Photoshop 5.0で明度、コントラスト、シャープネス、色調等を調整のうえJPEG方式で圧縮した。最終的なファイルサイズは20KBから144KBまでの範囲にばらついた。
 通常の表示装置で十分な画質が得られなかった一部の画像については、試作品のQSXGA TFT液晶ディスプレイ(200 pixel per inch)を用い、表示面積が等しくなるよう1067ピクセル×711ピクセルの解像度で保存したものを表示させて検討した。

3.各臨床検査分野ごとに見た問題点
3.1 一般検査
 対象とした尿沈渣と寄生虫では、殆どの場合問題なくデジタイズされ、特に染色標本では専門医が驚く程大変美しい表示画像が得られた。ただし、無染色の標本ではグラデーション部分に等高線状の縞模様が現れやすく、圧縮率を下げる必要があったが、診断に影響するような問題は全く生じなかった。

3.2 血液検査
 全体を通じて、色の再現性について正確さを要求されることが最も多く、微妙な色調の調整を要したのが、この分野の標本である。標本の色が染色液によって規定される点では病理検査と同じであるが、色素が血液細胞に含まれる成分と反応して起こる色調の変化が、診断の重要な根拠となるという特徴があり、そのために正確な色再現がより厳しく要求されると考えられる。
 一方、一部の標本では、解像度を上げることによりかなり画質が改善するものが見られ、色だけでなく解像度の面からも複合的な影響を受けていることが示唆された。

3.3 微生物検査
 細菌の顕微鏡所見において、色の再現能力が低い表示装置では、診断不能となる重大な影響が見られた。但し、この問題は解像度を上げることにより劇的な改善が見られ、色と解像度の両方の因子から複合的な影響を受けていることが示唆された。
 また、培地上のコロニーの標本写真では、グラデーション部分に等高線状の縞模様が現れやすく、圧縮率を下げる必要があったが、診断に影響するような問題は生じなかった。

3.4 免疫血清検査
 蛍光抗体法による抗核抗体と免疫電気泳動の標本につき検討した。前者では写真と同等の所見を得るために、デジタイズ後かなり強くアンシャープマスクを加える必要があった。後者では、細かな沈降線をはっきりさせるため、かなりコントラストを強調する必要があった。また後者ではグラデーション部分に等高線状の縞模様が現れやすく、圧縮率を下げる必要があったが、診断に影響するような問題ではなかった。

3.5 病理細胞診検査
 予想に反し、正確な色再現が厳しく要求されたものは、細胞診において微妙な色調の有無が診断に影響する一部の標本だけであった。むしろ弱拡大の顕微鏡写真では、画質の評価がほぼ解像度に依存することが示唆された。

3.6 染色体検査
 G-分染法の標本で検討したが、診断の鍵となるバンドを見易くにするため、デジタイズ後コントラストを微妙に調整する必要があった。

3.7 生理検査
 心電図、脳波、呼吸機能、心機図、超音波検査につき検討した。この分野については、画像の大きさは各々の検査報告書に合わせた。もともと色情報は殆ど含まれていないので、色の再現性が問題になることはなかった。なお、超音波検査については、静止画像と動画像で評価したが、後者の方が圧倒的に多くの診断情報が得られるだけでなく、形態の把握についても著しく有利であった。これは、実世界では常に動画像で情報を処理している、人間の視覚認知能の特徴に起因する可能性が示唆された。

4.表示装置による影響
 同じデジタル医用画像でも、表示装置の機種により診断精度が変わることは既に報告したが【2-7】、その他の面でも差が見られた。最近普及している32000色表示という性能があれば、殆どの場合色の再現性による問題は生じなかった。しかし、同じ表示可能色数であっても、CRTと液晶表示装置では後者の方が色の階調が荒く表示される傾向がある。即ち、後者だけにグラデーション部分に等高線状の縞模様が現れ、そのために圧縮率を下げる必要が生じることがあった。さらに、液晶表示装置の機種によっても、その程度に差が見られた。この原因についてメーカーの技術者に問い合わせたところ、液晶表示装置はCRTより階調の差を表現するのが難しく、制御回路の性能に大きく影響されるためではないかとの意見であった。同じ画像でも、CRTより液晶表示装置の方が診断精度が低くなる傾向が見られたのも、同じ原因に起因する可能性が考えられる。

5.推奨される対処法
 実際には、形態検査画像をデジタイズすることにより、診断精度に重大な影響が生じる場合は比較的少ないと考えられる。したがって実際にとるべき対処法としては、稀に起こりうる問題を予めリストアップしておき、デジタル化する際に、それらに焦点を当ててスクリーニング的にチェックすることで、偶発的な誤診を防ぐことが必要と考えられる。
 形態学的診断の特徴として、正しい標本の姿や、診断のためのゴールドスタンダードが、熟練者の頭の中に存在するという経験的事実がある。したがって、デジタイズ標本が正しく画面上に再現されているかどうかを判定する方法としては、オリジナルの標本と並べて見比べるよりは、むしろ熟練者に表示された画像を実際に見て判定してもらう方が有効であると考えられる。
 その評価に用いる表示装置として望ましいのは、何かの基準で標準化された機種であるが、現状ではまだ一般に普及しているものはなく、また市場に出回っているすべての機種について検討するのは、事実上不可能である。したがって現実には、デジタイズされた画像を用いる前に、最も問題が生じやすい機種をいくつか選択して予め熟練者がチェックし、もし不十分な点が見つかったら、その影響が最も小さくなるよう画像を調整しておくのが最善の策と考えられる。即ち、少なくとも32000色程度の色再現性能を持つCRTと液晶表示装置から1機種ずつ選んで確かめておくことは、最低限必要であろう。

6.おわりに
 本研究班の実験により、形態検査にデジタル画像を利用する場合に発生する問題は、ある程度の予測ができ、対処も可能となった。しかし、これまで行われたのは、あくまでも予備実験のレベルに過ぎず、対策も必要性に迫られた暫定的なものでしかないため、臨床的有効性についての保証はない。今後さらに定量的かつ系統的な実験を重ね、より裏づけのある方法論の確立が求められているのは言うまでもない。

謝 辞
本研究に多大な貢献をいただいた研究班員各位に対し厚くお礼を申し上げます。

参考文献
【1】Masahiro Nishibori, Kiichi Itoh, Kiyoaki Watanabe, Harushige Kanno, Yasuhiro Ohba:Use of WWW in a Control Survey of Morphological Laboratory Tests, Proceedings of the Ninth World Congress on Medical Informatics, 803, 1998 (http://mn.umin.ac.jp/medinfo98-803.html)
【2】西堀眞弘:形態検査領域における標準化の試み.第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム抄録集 25-28、1999年 (http://mn.umin.ac.jp/work19990508a.html)
【3】西堀眞弘編:平成10〜11年度 文部省科学研究費補助金基盤研究(C)課題番号10672172 研究課題「インターネットを使って形態学的検査のコントロールサーベイを実施する研究」研究実績中間報告書.第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム抄録集 55-69、1999年 (http://mn.umin.ac.jp/work19990508b.html)
【4】Masahiro Nishibori : The Role of Multispectral Imaging in Medicine. Proceedings of International Symposium on Multispectral Imaging and Color Representation for Digital Archives, 114-116, 1999 (http://mn.umin.ac.jp/work19991021.html)
【5】西堀眞弘:インターネットを用いた形態検査診断への表示装置の機種間差の影響.臨床病理(第46回日本臨床病理学会総会) 47(補冊) : 284、1999年 (http://mn.umin.ac.jp/work19991110.html)
【6】西堀眞弘:デジタル医用画像の色再現の差と診断への影響.第19回医療情報学連合大会論文集 336-337、1999年 (http://mn.umin.ac.jp/work19991125.html)
【7】Masahiro Nishibori : Color Representation of Digital Imaging in Medicine. The Proceedings of the 20th Congress of World Association of Pathology and Laboratory Medicine, 1999 (in press, http://mn.umin.ac.jp/work19990921.html)