皮膚の病理学的学的変化により、皮膚の光学的性質も変化し、その結果、皮膚病変(皮疹)は特有の色やパターンを呈する。内科的診療と異なり、皮膚科診療では初診時から皮疹(=マクロの病理)を直接観察できる。このため、診断や治療効果判定には、皮疹の色、形、分布の詳細な観察や記録が最も重要である。皮疹の画像記録としては、銀塩写真による臨床写真撮影の歴史が長く、最近ではデジタルカメラを皮疹の記録に取り入れている施設も増えてきている。 ところで、エックス線写真のように診断に用いた医療画像には絶対的保存義務が生じ、通常保険診療においても検査料が認められている。しかし、皮膚科の診断は基本的に皮膚病変を直接見ることによって行われるため、皮膚科臨床写真は補助的な記録と考えられ、絶対的な保存義務があるわけではない。「皮膚科臨床写真実費を保険診療で認めてほしい」という皮膚科サイドからの長年の要求も未だ認められていないため、皮膚科臨床写真記録にコストをさくことができないという一面もある。 皮膚科臨床写真が補助的な記録に留まってきたのは、銀塩写真にせよデジタル写真にせよ、「今までは皮疹の状態を正確に記録・再現することができなかった」という技術的な問題が大きい。長い歴史を持つ銀塩写真においても、フィルム、カメラ、照明、現像の違い等で、色は変化し、また、でき上がったフィルムが年月とともに劣化していくことがさけられない。デジタル写真では、年月による劣化は生じないが、今までの技術では、カメラ、コンピュータシステム、ディスプレイの違い等によって銀塩写真以上に色の再現性が悪いという現実があった。そのため、内科的診療と異なり、直接病変を観察できる皮膚科診療ゆえに、画像記録は重要だが補助的なもので、最終的な皮膚科の診療や教育は、直接皮疹を見て行う以外にないと信じられてきたのである。 しかし、デジタル生体医用画像技術が進歩し、皮膚科においても実物による診断に匹敵するだけの再現性が実現できるような画像を簡単に得られるようになった時には状況が一変する。皮疹を正確に記録、伝達、再現することができれば、皮膚科診療において、患者の転居等の際に正確な診療記録を紹介することができるようになるし、電子カルテや遠隔医療を通じて専門医が不在の地域の患者も皮膚科専門医の意見を求めることが可能になり、患者にとってのメリットははかりしれない。診断可能な皮膚科臨床画像記録ということで、皮膚科領域での画像の取り扱い方も変わってくるだろう。加えて、皮膚科教育も革新的なものになるだろう。 カメラさえあれば皮膚の写真撮影は誰でも行えるため、「遠隔医療で皮膚疾患のコンサルテーション」ということが既に様々に考えられている。しかしながら、実物による診断に匹敵するだけのデジタル生体医用画像技術の開発を伴わずに、電子カルテや遠隔医療の整備に多額のコストをかけたとしても、記録転送されたデジタル画像が皮膚科診断に必要な水準を満たしていないのなら、電子カルテや遠隔医療は無意味なものになるのではないかと危惧している。 このシンポジウムの開催趣旨にもあるように、表示装置等における色の再現性の問題が表面化しつつある一方で、従来とは一線を画する色再現精度を持つマルチスペクトル・イメージング技術が実用化されつつある。このシンポジウムが、真に診療現場の必要性をみたすデジタル生体医用画像技術の発展に、果たす役割は大きい。 |